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2020年4月23日 (木)

新コラム【私のメディア・リテラシー】 第3回 「新型コロナ」の前と後 世界はどう変わるだろうか 尾﨑 雄 Ozaki Takeshi(「老・病・死を考える会プラス」世話人 、元日本経済新聞編集委員)

第3回「新型コロナ」の前と後 世界はどう変わるだろうか 2020-4-23 世界的ベストセラー、「サピエンス全史」の著者であるイスラエルの歴史学者、ハラリ氏によれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、いまこそ人類史の転換期だと言う。
かつて日本人が歴史の節目に立たされた日があった。1945年8月15日である。それまでの「国のかたち」が全否定された日だ。私が「転換期」を実感したのは、2001年。世界を震撼させた「9.11.同時多発テロ」の当日、ニューヨークにいた。炎上するツインタワービルが崩落する姿を目の当たりにした。その歴史的瞬間にアラブ系らしき市民が悲鳴のような叫びをあげていた光景を忘れない。

神が人間の傲慢さに怒り「新型コロナ」を地球にばら撒く? 「世界は変わった」と直感したのはこのときである。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、それ以来の衝撃である。米国のジョンズ・ホプキンス大学によると、2020年4月22日現在、新型コロナウイルスの感染者は世界全体で261万人を超え、死者数は18万人に達した。圧倒的な感染の広がりとスピード、地球経済と国際政治に及ぼす深刻なインパクトは9.11.テロやリーマンショックとは桁違いに大きい。大袈裟に表現すれば、人類は、これまで営々として築いてきた文明の袋小路にはまっているのである。地球環境問題、先進諸国の出生率低下、貧困格差の拡大……をもたらした科学至上主義、合理主義的な経済システムや民主主義の限界は、人間という種が獲得してきた成果の意味を根本から問い直している。現在の惨禍は、わが物顔に地球を支配してきた人間の傲慢さが招いたのではないか。
人間の傲慢さを突いた物語は「ヨブ記」だ。「旧約聖書中もっとも注目すべき、重要なものの一つで、文学作品としても世界文学の最高峰のうちに数えられる」(文庫版解説)とされる古典である。 
神を畏れ敬うことこのうえなく深く、道徳的にも信仰においても非のうちどころのない暮らしを続けてきたと自負するヨブに、神は次々と過酷な試練をくだす。サタンを地上に遣わし、10人の子どもと莫大な財産をことごとく奪い、「足の裏から頭の天辺まで悪い腫物」に覆われる悪疫に感染させる。ヨブは、神の非情に抗議するが、神は創造主に人間が逆らうこと自体けしからぬとはねつける。神は「自分を中心に創造の世界を見、自分を創造者と対置した」ヨブの傲慢さを厳しく指弾した。「すべて驕り高ぶる者を見れば、これを挫き、神に逆らう者を打ち倒し ひとり残らず塵に葬り去り 顔を包んで墓穴に置く」(新共同訳)と。この物語の主人公、ヨブは現在の人類の姿そのものではないか

『智慧』の伝統を発展的に継承して深く思索する 人類はあたかも全知全能の神のように地球に君臨してきた。地球の資源や生態系を思うままに収奪し、破壊することによって豊かで便利な暮らしを謳歌してきた。あまつさえ遺伝子操作にまで踏み込んで神の領域を侵しつつある。ここにいたって、偉大で慈愛に満ちた神もさすがに堪忍袋の緒が切れ、サタンを地上に遣わし、新型コロナウイルスを地球上にばら撒いたのではないか。旧約聖書に拠って建つイスラエル生まれの歴史学者、ハラリ氏は3月31日付けの日本経済新聞に論文「コロナ後の世界へ警告」を投稿し、冒頭にこう書いた。
「人類はいま、世界的な危機に直面している。おそらく私たちの世代で最大の危機だ。私たちや各国政府が今後数週間でどんな判断を下すかが、これから数年間の世界を形作ることになる。その判断が、医療体制だけでなく、政治や経済、文化をも変えていくことになるということだ。新型コロナの嵐はやがて去り、私たちの大部分もなお生きているだろう。だが、これまでとは違う世界に暮らすことになる」。
人類は、ITやAIを駆使したデジタルイノベーションやデジタル・トランスフォーメーションを駆使して世界の再生を試みるだろう。それで人類は存続するだろうか。「ヨブ記」の著者は「当時の最高の知識人であっただけでなく、人生の苦難に打ちひしがれたつらい経験を持ち、しかも正しく『智慧』の伝統を発展的に継承して深く思索した人であった」(岩波文庫版解説)。だとすれば、「『智慧』の伝統を発展的に継承」し、「深く思索」することなしには、人類は「新型コロナ」よりも手ごわいウイルスの脅威に繰り返しさらされる。なき人類に未来はない。

現代のヨブ、人類は己の傲慢さに気づくか 21世紀における『智慧』とはなんだろう。
諸外国では、ウイルス感染を防ぐため罰則付きの外出規制を実施し、それなりの効果をあげている。これを我が国でも踏襲すべきか否かについて議論が分かれているが、iPS細胞の作製によりノーベル生理学・医学賞を受けた山中伸弥氏はこう語る。
「普段、私たちは気付かないうちに社会システムに守られ、研究や移動などの自由を謳歌している。今のような公衆衛生上の危機に直面した場合には、いっとき自由な行動を我慢してでも社会を守らないといけない。中国の武漢やイタリア、スペインのような状況では、罰則を伴う強硬措置もやむを得ない。そうならないために一人ひとりが自らの行動を変える必要がある」(4月20付け日本経済新聞のインタビュー)。
科学史家の村上陽一郎氏は、「一部の権威ある人々がすべてを決定した時代と異なり、今は社会にとって何が合理的なのかを最終的に判断するのは市民だ」(4月11日付け・日経)と明言し、「個人の良識や常識、健全な思考に私たちの未来はかかっていると再認識すべきだ。自然の謎や『わからないこと』と真摯に向き合い、問い続ける。その継続によって良識は養われる」(同)と指摘した。「コロナ」後の世界では、市民的な良識の創造が不可欠なのだ。
自らの傲慢さに気づいて悔い改めたヨブは、財産が倍返しに増え、病気は完治し、140歳の長寿を全うした。「ヨブ記」は2500年前の物語だが、21世紀もの人類は自らの傲慢さに気づき、行動変容をするかどうか。

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