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2020年6月 1日 (月)

新コラム【私のメディア・リテラシー】 第4回 政府が無能なのに、コロナ対策が成功したわけ 尾崎 雄 Ozaki Takeshi(「老・病・死を考える会プラス」世話人 、元日本経済新聞編集委員)

第4回政府が無能なのに、コロナ対策が成功したわけ 2020-6-1
 新聞を開くと、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の生真面目な記事が多いが、緩い話も載っている。たとえば、5月30日づけの朝日新聞土曜版のコラム「日本人は勝手にやってきた」。政府が無能だからこそ、ほかの国に比べてCOVID-19の感染者と死亡者を少なく抑えることができている、という。
安倍総理は「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半でCOVID-19の流行をほぼ収束させることができた」と自負し、「すべての国民のご協力、ここまで根気よく辛抱して下さったみなさまに心より感謝申し上げます」と述べた。これを受けて「日本人は勝手に……」は、「コロナ対策がなぜか、うまくいっている」のは「(政府が)無能なのに、じゃなくて、無能だからこそ、うまくいっている」と手厳しい。専門家会議の議論を尊重してきた政府が無能かどうかはともかく、国民の多くは政府が提示した施策に納得がいけば罰則なしでも従い、施策の効果を上げ、結果的に公共善に貢献した。このコラムの筆者は小説家の保坂和志氏。表現は過激とはいえ多くの文学賞を取っている作家らしい指摘である。
“異邦人”も似たような日本人観を持っているという。ラグビー日本代表のエディ・ジョーンズ前ヘッドコーチは「日本人は上に言われるから規則に従うのではなく、もともと日本人には規則に対する強い敬意がある」と。ここで言う「規則」とは「ものの道理」のことだろう。日本人がほんとうに遵法精神に富んでいるかどうかはさておき、「三密」禁止とかソーシャル・ディスタンスの保持といった常識的に納得できる「要請」なら遵守する賢さを備えているようだ。これが話題の「ファクターX」の一つかもしれない。
「ファクターX」を探せ!
「ファクターX」とは、iPS細胞を作製してノーベル賞を受けた山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所・所長)が自身のサイトで問題提起した考え方である。山中氏はこう述べる。「新型ウイルスへの対策としては、徹底的な検査に基づく感染者の同定と隔離、そして社会全体の活動縮小の2つがあります。日本は両方の対策とも、他の国に比べると、緩やかでした。PCR検査数は少なく、中国や韓国のようにスマートフォンのGPS機能を用いた感染者の監視を行うこともなく、さらには社会全体の活動自粛も、ロックダウンを行った欧米諸国より、緩やかでした。しかし、感染者や死亡者の数は、欧米より少なくて済んでいます。何故でしょうか?? 私は何か理由があるはずと考えており、それをファクターXと呼んでいます」
山中氏があげるファクターXの候補は7つ。①感染拡大の徹底的なクラスター対応の効果、②マスク着用や毎日の入浴など高い衛生意識、③ハグや握手、大声の会話などが少ない生活文化、④日本人の遺伝的要因、⑤BCGなど、何らかの公衆衛生政策の影響、⑥2020年1月までの何らかのウイルス感染の影響、⑦ウイルスの遺伝子変異の影響――である。 
日本固有の「恥の文化」が感染拡大を押さえた?
この問題提起は、瞬く間にメディアに拡散した。たとえば、6月4日号の『週刊新潮』は、「手洗い・マスク文化」「BCG」だけではなかった“重大要素”とか、「重症化回避の遺伝子を探せ」慶大・京大研究班が「ゲノム解析」とかいった記事を載せている。山中氏の「候補」には入っていないが、「日本人は勝手にやってきた」は8番目のファクターX候補かもしれない。5月31日の日本経済新聞のコラム「春秋」はルース・ベネディクトの『菊と刀』にかこつけて書いた。日本固有の「恥の文化」が影響しているという見立てである。
COVID-19の正体は、日本上陸当初に比べればおぼろげに見えてきたとはいえ、治療薬はもとよりワクチンの開発もハッキリした見通しが立っていない。したがって「ウィズコロナ」とか「アフターコロナ」とかいうウイルスと共生するための議論は百家争鳴。それだけに「ファクターXを明らかにできれば、今後の対策戦略に活かすことができるはず」(山中氏)だ。「日本人は放っておけば、勝手に努力して、勝手にあれこれ工夫する。そういう人たちのあつまり」(保坂氏)だ。リーダーシップの不在が叫ばれて久しいが、中国の一党独裁や韓国のIT監視網による電脳独裁などに比べれば、「ものの道理」を弁えた国民が「勝手にやって」くれるようなレッセフェール(自由放任)体制の方がましなのかもしれない。

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