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【私のメディア・リテラシー】第11回 自民党総裁選の議論に欠落する医療の国家戦略  尾﨑 雄 Ozaki Takeshi(「老・病・死を考える会プラス」世話人 、元日経ウーマン編集長

――そうかなと思っていたが、専門家に言われるとめいる。コロナ収束に「2,3年」(朝日新聞9月16日夕刊「素粒子」)
自民党総裁選の候補者による論戦がたけなわだ。河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子という4候補が出演する記者会見や公開討論会を皮切りに新聞各紙、NHKはじめ民放各社も関連する記事や番組が出そろった。一般市民もそれなりに彼ら彼女らの主張の違いや濃淡が見えてきた。そこで驚いたことは、コロナ後に立ち上げるべき医療体制について誰も語っていない、ということである。
国家戦略の一環というよりも国家経営の要である「医療」の有り方について、どのようなグランドデザインを描き、それをどう実施し、来たるべき有事に、どのように運用すべきかーーそうした「骨太の方針」を4人の総裁選候補者は何も語らない。世界的な感染症拡大に襲われれば、我が国は医療崩壊に瀕するということを全国民は知り、少なからぬ国民は身をもって体験し、助けられて当然のはずだった多くの命を失ったのだ。コロナ禍が2,3年で収束したとしても、あとをどうするつもりか?   
我が国の医療を抜本的に立て直す国家戦略をどうすべきかに真正面から取り組む気迫と問題意識を次期総理大臣の候補者からは感じられないのである。

 機能不全を見える化した我が国のヘルスケア制度  

 今後のコロナ対策について候補者はこもごも語る。河野氏は「非常時の指揮命令系統や権限は見直すべきだ」とし、「ロックダウンを可能にする法案をつくるのが大事」と主張。高市早苗氏は「最悪の事態を想定」して、「緊急事態では国や自治体が医療機関や医療従事者に病床確保などの必要な対応を命令する権限を持つことも含めて法案化したい」と述べる。岸田文雄氏は「危機管理庁という有事の司令塔をつくるべきだ」とも。野田聖子さんは法案や法整備に踏み込む発言や主張に乏しかった。
ここに問題があるとことを突いたのは御厨貴東大・名誉教授だ。9月17日のBS日テレの番組「総裁選告示! 候補者は 語ったコト徹底分析」を締めくくる発言である。コロナ対策について、どの候補者も、誰でもわかる重要なキイワードに触れていない、と指摘した。何を語らなかったことに国民は耳を澄ますべきだ、と。4人の候補が語らなかった言葉は「厚労省」と「日本医師会」。これら二つの旧い巨大組織に手を加えることから逃げれば、今後も繰り返し襲う地球規模の感染症拡大(パンデミック)に我が国は翻弄される。御厨氏はそう警告したかったのだろう。
候補者らが縷々語り、主張していることは一見して、それなりの説得力もある。ただ、その場しのぎの対策や政策にも聞こえる。それらは厚生労働大臣や臨時の担当大臣ら、あるいは国会が為すべきことではないかにか。自民党総裁すなわち次期総理となる者が国民に語るべきことだろうか。そうではない。戦後70余年の歳月を費やして作り上げてきた我が国のヘルスケア・システムが機能不全に陥っていることをしっかりと見きわめ、その原因を詳らかにし、我が国の医療制度を解体的に再構築するための青写真を描いて見せることだろう。
そこには、ワクチン開発を国家戦略の要として、どう位置付けるかといったことが含まれる。東京大学医科学研究所の石井健教授(ワクチン科学分野)は、2020年12月22日、日本記者クラブで次のように講演した。
「ワクチンは国防と外交と公衆衛生の要」である。すなわち「国防・安全保障」、「外交・国際貢献」、「公衆衛生・市民安全」そして「経済・産業」をつなぐ中心に「感染症対策=ワクチン」がある位置付けた。日本がワクチン開発で他の先進国から1周も2周もの周回後れを演じた最大の原因は「戦略性の欠如だった」と指摘したのである。

痛みを伴う政策を語る責務から逃げてはならない

 その愚を繰り返さないためには、政治家はもちろん、医師はじめ医療従事者・医療機関も、経済・産業界そして国民にもそれなりの負担と覚悟を求めることである。そのことを御厨氏は「厚労省」と「日本医師会」という誰でもイメージしやすいキイワードを挙げて言いたかったに違いない。国民は、縦割り行政の牙城である「厚労省」には解体的再構築を、かつて「会員の3分の1は持ち村の村長さん」と揶揄された日本医師会には「プロフェッショナル・オートノミー(自己規律)」を取り戻すことを望んでいるはずだ。
実は、こうした指摘は唐突ではない。9月10日付け日本経済新聞は署名記事「厚労行政 改革持ち越し コロナ対策後手 政権の急所に」を載せた。それによると、前日の記者会見で菅首相は「(厚労省)一本で対応できる組織が必要だ」と厚労行政の改革を訴えた。主要7か国(G7)の多くは2020年12月頃にワクチンを薬事承認したが、日本は国内治験に時間がかかり21年2月にずれ込んだ。米国のように緊急時に即応できる仕組みが十分でないからである。「ワクチンや治療薬承認権限を持つ厚労省は薬害を考慮して慎重になりがち」でもある。さらに「国と自治体の壁もあり、保健所に厚労省から直接指揮できない」と菅首相は弁明した。
4人の総理候補者には、こうした菅首相が犯した壮大な失敗いや歴代政権が放置してきた積年の弊を二度と繰り返さずに済む国家戦略をを示して欲しい。9月20日付け朝日新聞は社説で「財源論議から逃げるな」と主張した。コロナ禍のさなかに迫る衆院選むけに総裁候補らは様々な施策を訴えているものの、「自らの政策に必要な財源確保策をほとんど語っていない」。増税をせず、「漫然と借金を重ねるのは、次世代に対してあまりに無責任」である。「政治家の真価は、痛みを伴う政策を語ることにある。その責務から、4人の候補も逃げてはならない」と。むろん、このことは他のすべての分野についてもあてはまる。

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