【私のメディア・リテラシー】第20回 <91歳で“安楽死”した最後の巨匠、ゴダール> 尾﨑 雄 Ozaki Takeshi(「老・病・死を考える会プラス」世話人 、元日経ウーマン編集長
「勝手にしやがれ」、「女と男のいる鋪道」、「気狂いピエロ」で知られた巨匠が逝った。9月13日、ヌーベルバーグ(新しい波)の旗手とされた映画監督、ジャンリュック・ゴダール氏がスイスの自宅でなくなった。91歳。スイスで認められている「自殺ほう助」による自己決定だった。
毎日新聞によれば、先鋭的な映画技法を駆使し、カンヌ映画祭を中止させるなど冒瀆的な反逆者とも呼ばれた。「作品はさまざまな解釈と論議の対象となり、難解と言われながらも映像の独特の美しさやデザイン性が、今も若者たちを引きつける」。「断固として新しく、自由な芸術を生み出した。私たちは天才のまなざしを失った」とマクロン大統領に言わしめた文化的英雄だった。
<みずからの生命さえおのれで操るかのように>
映画評論家・蓮實重彦氏(86)は15日、朝日新聞によせた哀悼文にこう記す。
その日本語の題名(「勝手にしやがれ」)故に、我が国では「自分勝手」な映画作家と見なされがちである。それは、ある意味で正しいといわねばならぬ。彼は、自分に相応しい作品しか撮ってこなかったからだ。しかも、ゴダールは、自死同然の振る舞いで他界してみせたという。なんということだ! 同氏は翌日掲載の神戸新聞の追悼文でも、ゴダールの魅力は自分の好きなことしかやらなかったことだったとし、なぜかほっとしている、と。
スイス公共放送国際部のサイト(SWI)は 9月15日、スイスの安楽死について発信した。それによると、自殺ほう助による死亡者は増え続け、2017年末では1000人を超えた。65歳超が大半だが、若年層もふえてきている。この数値には国外居住者が含まれておらず、国内の自殺ほう助主要団体が発表した年間の死亡者は1500人を超える。
スイスでは医師など第三者が患者に直接薬物などを投与するなどして死に至らせる「積極的安楽死」は法律で禁止されている。認められているのは、医師から処方された致死薬を患者本人が体内に取り込んで死亡する「自殺ほう助」で、実施主体は会員制の民間非営利団体である。ドイツ・イタリア語圏の「エグジット」の会員数は2021年末で14万人を超え過去最高に。フランス語圏の「エグジットA.D.M.D」は3万人超だ。外国人を受け入れる「ディグニタス」は1万1000人超。うち日本人は57人である(2021年末)。
<自宅で“安楽死”する人が多い>
自殺ほう助が許される主な条件は①治る見込みのない病気、②耐え難い苦痛や障害がある、③健全な判断能力を有する、など。スイス国内居住者では自宅を実施場所に選ぶ人が多い。精神障害や認知症を持つひとも健全な判断力が認められれば自殺ほう助を受けられるが、スイスといえども、さすがに微妙な問題だけに、これまで複数の医師・関係者が逮捕・起訴されているそうだ。
ゴダールは「病気ではなく、疲れ切っていた」(毎日)とも、「穏やかに亡くなった」(読売)とも。巨匠最後の来日は2002年。インビュアーにこう漏らしたという。「年をとるにつれ、見ることも聞くことも、とても難しいということが分かってきた」(産経)。それから20年。かつての反逆児は芸術にも生きることにも疲れて「安楽な死」を選んだのだろう。
「本人が希望した積極的安楽死」を認めているのは米・オレゴン州、コロンビア、オランダ、ベルギー、カナダ、イタリア、スペイン、ニュージーランドなど16の国・地域である(Wikipedia)。
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