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優先席

医師として、武士として     安藤 武士 Andou takeshi

1941年、新潟県生まれ。1967年、新潟大学医学部卒業後、医師登録と同時に外科研修を開始。72年、呼吸器・心臓血管外科を専攻後、80年より、心臓血管外科部長として日本赤十字社医療センターに勤務。2001年より職域診療所所長として活躍中。労働衛生コンサルタント・スポーツドクター(日体協)・健康スポーツドクター(日医)・認定産業医(日医)の資格を持ち、これらの5つの顔を絶妙な味で使いわける医学博士である。身体の大きさと、豪快な笑い・笑顔には、その人柄と存在感をより強くアピールする何ものかが潜んでいる。やはり'武士'にして"武士"ここにあり。 >>>バックナンバー

vol.32    優先席    2008-4-2

 大辞林に「優先席」という文言は収載されていない。「優先」は、「他のものより先に扱うこと」、「他にさしおいて行うこと」と解説されている。「席」に冠すると「他のものより先に扱う席」、「他にさしおいて行う席」となる。すっきりしない。しかし、理解はできる。

 乗り物にある「優先席」の話である。「優先席」にも歴史がある。’73年9月15日(敬老の日)、旧国鉄の中央線の快速・特別快速に本邦で始めて設置された。当初は高齢者、身体障害者を対象に設けられた。他の座席と区別するため色を違えた。使用した布の色がシルバーグレイであったため「シルバーシート」と命名された。現在は、濃紺、オレンジ、柄ものなどいろいろである。優先者も高齢者、身体障害者以外に怪我人、妊婦、乳児連など一時的に何らかのハンディキャップを持つ人に優先対象が拡大され、高齢者専用の席を思わせる「シルバーシート」から「優先席」という名称に変更された。窓ガラスに「優先席」、「Courtesy Seat」、「Priority Seat」のステッカーとハンディキャップを持つ人のイラストが張られていることはご存知のことである。携帯電話の電源を切ることも求められている。  

 弱者のため「優先席」を設けることは喜ばしいことである。しかし、弱者を限定した席に押しやることは、弱者に理不尽を強いることでもあり賛意を表さない人もいる。お客様のモラルを ”はな”から否定しており”失礼ではないか!”という人もいる。7、8年前のこと、全車両の座席が「優先席」と同様に扱われるよう乗客にモラルの向上を呼びかけた電車があった。ハンディキャップを持つ乗客を指定した席に追いやる事を避け、本当に必要な人がどこにでも座れるよう、全座席を必要な人のための「優先席」とした。小生も全席優先席と表示された電車を利用する機会があった。いたるところに「優先席」のステッカーが貼ってあり戸惑いを感じた。空席があったが座るのが躊らわれた。無論、反対しているのではない。いっそのことステッカーは無くてもよいのではないか。

 「介助を必要とする乗客は2日前に連絡をして下さい。」いうステッカーを張った電車が、身障者の団体より「差別」であると抗議を受け撤去を余儀なくされたという。要請に応じて要員を確保し最善を尽くそうとした会社のアイデアと思われる。しかし、誰でも利用したいときに利用できる体制が本来の姿である。会社の都合を優先した親切は歓迎されない。  

 地下鉄の「優先席」に座っていた時の話である。電車が止まり、開きかけたドアーに目をやると、初老のご婦人とご婦人の腕にしっかりと支えられた若い女性が目に入った。二人は互いに目を交わし楽しく会話をしていた。幸せの空気に包まれていた。「優先席」に座っていた小生は席を立った。隣の男性も席を立った。笑顔の初老のご婦人の柔和な顔が一瞬にして強張った。眉を顰め、”ありがとうございます”と軽く会釈をし二人は席に座った。暫くして、硬く暗い表情で目を瞑っているご婦人の姿が目には入った。

 若い女性は片手にペットボトル、もう一方の手に携帯電話を握っていた。携帯はぎこちなく揺れていた。独りでは使えるはずもない携帯やペットボトルを持つ姿は、同世代のファッションと変りなかった。若い女性が身体障害者であることが小生にはすぐ分った。女性は初老のご婦人の娘さんと思われた。娘さんは幸せそのものであった。

 二人はいつも寄り添って日々を送っていると思われた。席を譲れられた母親は眉を寄せ目を瞑り凛として座っていた。あす、あさって、そして、娘が独りになるであろう日を見つめているものと思われた。”親切”が幸せを壊してしまった。

 これから娘さんはどうなるのであろう。小生の心は今も重たい。”親切”は難しいことを言いたかった。

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