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医師の労働時間

医師として、武士として     安藤 武士 Andou takeshi

1941年、新潟県生まれ。1967年、新潟大学医学部卒業後、医師登録と同時に外科研修を開始。72年、呼吸器・心臓血管外科を専攻後、80年よ り、心臓血管外科部長として日本赤十字社医療センターに勤務。2001年より職域診療所所長として活躍中。労働衛生コンサルタント・スポーツドクター(日 体協)・健康スポーツドクター(日医)・認定産業医(日医)の資格を持ち、これらの5つの顔を絶妙な味で使いわける医学博士である。身体の大きさと、豪快 な笑い・笑顔には、その人柄と存在感をより強くアピールする何ものかが潜んでいる。やはり'武士'にして"武士"ここにあり。

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Vol.37 医師の労働時間 2009-7-31

 

 「外科医不足を懸念 NPO発足」のタイトルで始まる新聞記事が目に留まったサブタイトルは「長時間労働、低賃金、訴訟リスク・・・」、表題で容易に内容を推察できる(毎日新聞。’09/7/3)。

 

 記事を進める「深刻さを増す外科系医師の不足を懸念し、対策提言や啓発を行うNPO『日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会』が発足した。(略)。医師不足は産婦人科や小児科などで顕著とされるが、日本外科学会の発表では96~04年に、産婦人科1.1%減、小児科6.5%増に対し、外科は2.1%と最も減少幅が大きかった。労働時間の長さや訴訟リスクの高さ、低賃金などが外科医不足の理由として挙げられた。

 同学会の調査でも裏付けられた。外科医の週平均勤務時間は59.5時間。開業医など診療所勤務を除く病院勤務医に限ると68.8時間で、法定労働時間を大きく上廻る。医師1000人当たりの新規医療訴訟数は、05年9.6件と産婦人科(11.5件)に次ぎ多い。給与は、病院勤務医の平均年収が診療所の外科医の半分という「格差」問題がある。(略)。

 (同会役員の一人は)『現在は40代の医師が外科医療を支えているが、このままでは10年後の(外科医療の)崩壊は必至。政府、市民に働きかけ、根本的な解決策を提言したい』と話している。」

 労働時間である。労働時間は労働基準法で「使用者の指揮・監督下にあって、労働を提供している時間(休憩時間、通勤時間は含まない)。」と規定されている。時間も「法」で定められており、第32条第1項では「労働者は休憩時間を除き1週につき40間を超えて労働させてはならない。」、第2項「使用者は1週の各日については、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない。」とされている。ご存知のことである。

  時間外労働、所謂残業である。超過勤務ともいう。法定労働時間を超える労働時間と定義されている。労使間で協約(36協定)し労働基準監督署長の許可を受ければ何時間でも残業は可能であるが、現在は1日の労働時間は10時間まで、1週間では52時間、連続労働日数は6日間まで、1週間の法定労働時間を超える週は連続3カ月に3回までと残業は抑制されている。

 

 小生が携わっていた心臓外科医の超過勤務時間である。心臓外科医が属する胸部外科学会の02年度調査では胸部外科医全体で61%が週20時間以上、32%が週30時間以上、6%は週60時間以上の超過勤務をしている。6年未満の若手胸部外科医では

84%が週20時間以上、63%が週30時間以上、20%が週60時間以上の超過勤務を研修という名目で行っている。この社会的にみて異常な勤務を医師は日常的なことであり異常とはそれほど思っていないのである。

 98年8月、大學付属病院の研修医過労死訴訟があった。法廷は「研修」を労働基準法が適応される「労働」と位置づけた。死亡前1カ月間の114時間という超過勤務は一般社会における労働環境としては極めて異常とされた。当時、医師は「研修」が労働基準法が適応される「労働」と位置づけられたことに戸惑ったのも事実である。無論、研修医の労働環境が整備されることは喜ばしいことであり異を唱える積りはないが、「研修」を「労働」として捉えることに釈然としないものがあった。医師は自らの生活を顧ず患者さんの診療に全てを捧げるべきであるとした社会通年から労働環境の整備はほとんど無視されてきたが、医師自身も医療に従事することを労働基準法が適応される「労働」と思う意識は薄いのである。医療を行うことを「労働」と定義されると、「残業代は・・・」、「経営者は・・・」といった雑念が頭を過ぎる。奉仕の心に箍(たが)がはめられ極めて窮屈になる。

 今年の3月、医師国家試験の発表があった。知人のお子さんが合格した。激励のためお会いした。人生、最大の喜びであるという。既に研修病院は決まっているが、将来の専門分野はこれからという。学位は取得する積りは無く、専門医の資格をとるなどキャリアアップを計り有名病院に就職したいと語っていた。

 ほどなく研修医君からメールが届いた。研修は厳しいが楽しい。勤務時間は一定しており、残業は2時間程度。一日がとても早く感ずる。近く「プレゼン」を行うことになった。関係者をあっと言わせたい。フリーの時間を楽しんでいる。給与も満足している。一流企業に入った新人サラリーマンを彷彿させるメールであった。

 研修を終え有名病院に就職し安定した日々を楽しく送ることを人生の最大の目標にすることはすばらしいことである。しかし、それだけでは医師として何か欠けるものがあるのではないかと思っている。いずれにせよ、まもなく新しいタイプの医師が誕生するのである。

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