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●　須之内　哲也　sunouchi tetsuya 　　　　　　　　

事故に遭わなければ一時代を築いたに違いない元・オートレーサーによるコラム

「須之内　哲也の世界」～もう一度会いたい～

「おれが生きているのは初美のおかげ。ただ、もう一度会いたい」。
その時々の情景を思い浮かべながら、ひたすら心の内を書き綴っていく。

事故に遇わなければ・・船橋で注目され一時代を築くとうたわれた元オートレーサー、
彼の車名は知る人ぞ知る『ホージョウ』。
レースの賞金で自家用車をもらうほどの一流選手で、弟子を十数名も抱え、師匠と呼ばれるほどにのぼりつめていた。
しかし、３０歳にならない歳で脊髄を砕く大事故に遭い選手生命を閉ざされた。
車椅子での生活を余儀なくされ、周囲に当り散らしたこともあった。そんな時、妻の初美さんが見せる悲しそうな顔。
「哲っちゃんのニコニコ笑っている顔が一番好き」という初美さんの言葉・・
それからの生活はいつも一緒で何をするにもふたりだった。
しかし、初美さんは9年前、彼の手の中で逝った。「哲っちゃん、愛してる」の言葉を遺して・・。

⇒バックナンバー（vol11以降）

⇒バックナンバー(vol10まで)

vol.25. 2009-7-10 初美は絶対俺が看る

5月28日　今までの座薬で、痛みが取れなかったので、飲ませたら、「吐き気がして、身体が動かない」と自分がビックリして「この薬はいいや」と言った。

薬も、飲む物もすべて初美は私に任せていたので、なにがあっても、絶対に初美を、俺が看てやると思っていた。

病院の先生からは入院させて。周りからは、何で入院させないのか、と一番辛い時だった。私が、初美を入院させないので、姉が私の家に来て「本当に、在宅看護でするつもりか」と「これから、どんなことが起きるか分からないよ。大丈夫か」と確認をしに来た。

　大丈夫だよ、どんな事があっても、初美は俺が看ると、姉にもはっきりと言った。

（1999）平成11年6月2日

　訪問看護師さんと、途中で待ち合わせをしていた。看護師さんは、初美と私に「今日は、私が面接に来ました」と言って、私が、今までの経過を話すと、うなずきながら心から聞いてくれた。なんて優しくて、安心出来る人なのだろう、と思った。色々と話をしていると、看護師さんは「私でよかったら来ます」と言ってくれた。初美も私も、これで安心して、家に居られる、と思い「お願いします」と頼んでいた。

私は最初、緊張していたけれど、看護師さんが帰った後、初美が「優しくて、いい人でよかったね」と言い、二人で、悩んでいた事が、吹っ切れた思いだった。

それからまもなく、看護師さんが、外科の先生に初美の診察を受ける様にしてくれた。

6月10日　午後2時から先生と、面会が出来て、看護師さんに連れられて、私が行った。今までの経過報告を、簡単に書き添えて、先生に私が説明した。先生は、すごく物静かで、優しく丁寧に素人の私にわかるような説明をしてくれた。「病気のことは本人に本当の事を話す」との事だったが、先生に「後何ヶ月だとも、本人に言うのですか。」と聞いた。先生は「それは、神様だけにしかわからない」と言って、私は、ほっとするのと、私の思っている、神様の言葉が出たので、そうですよね、と心の中で思い、なんて優しく、良い先生でよかった、と思った。そして、先生に「よろしくお願いします」と頼んだ。

私は、たとえガンでも、初美が生きる気力を持って、一生懸命にがんばる姿を見ているので、ガンの告知は、最初から話していたけど、余命までは絶対に知られたくなかった。

次の日の、6月11日は、初美が先生の初診を、午後から受けることになっていた。二人で、早めに行って、医療相談室の看護師さんにも、お世話になっていたので、初美と二人で面会した。会ってお礼を言いながら、色々と話を聞いてきた。こうして、色々な人達に、助けてもらいながら、ここまで来られたことに、皆に、心から感謝の気持ちで一杯だった。

診察を受けて、今までの資料が、私の記憶で書いた、簡単な経過報告だけなので、レントゲンと血液検査をして、今後の検査の日程を決めてくれた。家に戻って、初美が「先生は、すごく優しくて、素人の私達にもわかるような説明だったね。良い先生でよかったね」と私が思っていた気持ちと、同じだった。

先生も、訪問看護師さんも決まって、良かった、と二人で安心した。初美と私の実家に、と今日の報告をした。

夕食の時、子供達にも話、久しぶりに家族で、笑いながらの食事もできた。