今は亡き、レーサー須之内哲也のコラム
vol.30. 2010-9-28 肝臓に転移して、広がっている
ある日、私が一人で用事から帰って来た時、初美と玄関前の道路でばったり会った。向こうから歩いてきた初美と一緒に家に入ると、「あたし達は、骸骨とお化けだね」なんて笑いながら言った。「何で」と聞くと「あたしは髪の毛が縛っただけで、哲ちゃんは痩せ細っていて」と、二人で笑ってしまった。
たまに二人で、お昼を食べに出かけていたけれど、長男が居るので、「三人でお昼食べに行こうか」と初美が言い食べに行った。中々決まらず、結局、日本そば屋に入った。
初美は「いつも家で御そばなのに、外でも御そば」と言っていたけれど、嬉しそうだった。外に行っている時は、元気なのだが、家に帰って来ると疲れるのか、元気がなくなってしまう様になって来ていた。
8月21日、今日は朝から気分が良く、パンと桃を食べ、元気が出た。少し昼寝をして、起きたら「グラタン食べたいから、食べに行こうか」と二人で食べに行った。帰ってきたら、疲れたのかすぐ寝てしまう。何か食べたいよりも外出したい気持ちなのだろうと、私は思っていた。
夕方、お風呂に入っても、「お腹が痛い」と「座薬を入れても、シクシク気分が良くないよ」と夜になって、「なんか、尿の色が濃くなっているんだ」と言っていたが、私は、足のむくみばっかり、気にしていたので「大丈夫だよ」と言っていた。
22日の夕食中、長男が、「目が黄色いよ」と言うので、初美はビックリして、すぐ洗面台の鏡へ見に行った。目の白い部分が、少し黄色ににごっていた。顔や手は、そんなに黄疸が出ている、と思わなかったが。次の日、訪問看護師さんから電話で、目が少し黄色い事を話すと、すぐ来てくれた。その場で、先生に連絡を取ってくれて、24日午後、病院で検査をする事になった。
8月24日、心配で次男も仕事を休み、家族四人で病院に行った。もう、昨日とは違い、顔も体も黄色になっていた。先生の診察室に入ると、「これからエコー検査するから」と先生が初美を車椅子に座らせて、先生自ら車椅子を押して、エコー室まで連れて行ってくれた。私の心はドキドキだったけど、先生が初美の車椅子を押してくれている、優しさを感じながら、後ろから着いて行った。
検査室で、初美がベッドに横になり、ベッドを囲むように、私達家族も見ていた。画面を見ても、素人の私には、分からないが、検査している人と先生の顔が気になっていた。
検査が終って、先生が初美の車椅子を押して、診察室まで戻って来た。
そして、家族四人に、「肝臓に転移して、広がっている」と、そして「残念ですが」と説明を受けた。
私は、どうする事も出来ない状態なのだ、と実感した。初美も、もう何も聞かなかった。自分で自分の身体を分かっている様だった。子供達も、ただ黙っていた。
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