コラム「医師として、武士として」Vol.75 取りあえず人生 安藤 武士 Andou takeshi
1941年、新潟県生まれ。1967年、新潟大学医学部卒業後、医師登録と同時に外科研修を開始。72年、呼吸器・心臓血管外科を専攻後、80年より、心臓血管外科部長として日本赤十字社医療センターに勤務。87年より職域病院部長、2001年より職域診療所所長、2010年より佐野市民病院健康管理センター所長、そして 現在は、医療法人社団東華会・介護老人保健施設たかつ施設長として活躍。労働衛生コンサルタント・スポーツドクター(日体協)・健康スポーツドクター(日医)・認定産業医(日医)の資格を持ち、これらの5つの顔を絶妙な味で使いわける医学博士である。身体の大きさと、豪快な笑い・笑顔には、その人柄と存在感をより強くアピールする何ものかが潜んでいる。やはり'武士'にして"武士"ここにあり。
Vol.75
2015.12.25 取りあえず人生
「取りあえず」は辞書によれば、①ほかのことはさしおえて、まず第一に。なにはさておき。 ②十分な対処は後回しにして暫定的に対応するさま。 ③将来の事は考慮せず、現在の状態だけを問題とするさま。さしあたって・・・・・・、などと解説されている。
要約すれば「暫定的」という意味合を含む。従って、「取りあえず人生」は、「暫定的人生」ということなる。生き方は色々あるが、「まぁ、それでいいか。ひとまず、それで行こう。」ということになる。理想と現実との妥協で生きることになる。
悲壮感があるかないかは別にして、多くの人は「取あえず人生」を送っていると思っている。小生の事である。幾つらかは覚えていないが、「医学の道」に就くことを考えるようになった。
医学生になり、教養、基礎、臨床医学講座に進み医師となる知識を習得したが、将来は基礎医学の道に行くことにしていた。小生が志したのは、「どうなっているか、どうしてそうなるのか。」という「謎解き」をすることである。ヒトは生きるためにどうして酸素が必要なのか、という幼い疑問をもったこともある。
医学生になった頃、知人より1960年、ノーベル賞を受賞したバーネット著「クローン選択説」の解説書をいただいた。今日、広く行われている臓器移植に繋がる「免疫」に関する学問である。「免疫学」に興味を持った。専門課程の2年生の頃、基礎医学の教授に相談にいった。免疫に関する勉強をしたいが、どの(基礎医学)教室にいけば、研究(謎解き)ができるか教えていただきたい旨、尋ねた。在籍していた大学には、「免疫学」を研究している教室(講座)はない。全て自分で勉強し開拓しなければならない。能力が無ければ基礎医学だけでは食べていけないとの指導を受けた。賛成も反対もされなかった。教授は、早速、講義でバーネットのクローン選択説を解説してくださった。免疫学の奥深さを知った。
先達の医師に、医師(臨床医)にならない積りだといったら、医師国家試験は生涯一度だけの機会だから、基礎医学の道を選んでも「医師免許」は執っておいたほうが良いと諭された。
結局、1年間のインターンを終え「医師免許証」を取得した。修行中に臨床医学の面白さを知った。インターン中にお世話になった諸先輩医師から「うちの科」に来ないかと誘われ、「まぁ、いいか。」という気持ちで潰しがきく「外科」を選択した。「謎解き」より「生命」を扱う道を取りあえず歩み始めた。臨床医学は究極のところ、自分がどう思うと「結果」が全てである。自分の興味を満足させる道から、他人に満足していただく道に入った。「取あえず」臨床医になった。いつかは「謎解き」だけの道に入ろうと思っているうちに、どっぷりと「臨床」に浸かってしまった。
小生と逆の人生を送った知人がいる。学生時代から基礎医学教室に入りびたりで、いずれは臨床医学を専攻する積りが、「謎解き」を続け教授になり定年を迎えたのである。小生が憧れていた人生を送ったのである。
そのように考えると、「取りあえず人生」を送っている人の方が圧倒的に多いのではないかと思っている。
小生は、「ぼけ」を恐れる年頃になっている。「謎解き」は諦めているが、これからどのように
したら心が満たされるのだろうかともがいているうちに、また、一年が過ぎてしまった。
「まぁ、いいか」、来年を期待しよう。(完)
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