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コラム「医師として、武士として」 Vol.76子育て 安藤 武士 Andou takeshi

1941年、新潟県生まれ。1967年、新潟大学医学部卒業後、医師登録と同時に外科研修を開始。72年、呼吸器・心臓血管外科を専攻後、80年より、心臓血管外科部長として日本赤十字社医療センターに勤務。87年より職域病院部長、2001年より職域診療所所長、2010年より佐野市民病院健康管理センター所長、そして 現在は、医療法人社団東華会・介護老人保健施設たかつ施設長として活躍。労働衛生コンサルタント・スポーツドクター(日体協)・健康スポーツドクター(日医)・認定産業医(日医)の資格を持ち、これらの5つの顔を絶妙な味で使いわける医学博士である。身体の大きさと、豪快な笑い・笑顔には、その人柄と存在感をより強くアピールする何ものかが潜んでいる。やはり'武士'にして"武士"ここにあり。

Vol.76  2016.1.2 「子育て」

 「子育て」には手がかかる。大変である。だからこそ一層、愛らしく感ずるのではなかろうか。

 過年の3月頃の話である。夜、11時過ぎ、小生宅の玄関のチャイムが鳴った。家人はすでに床に就いていたので、小生が対応した。ドアを開けると、小さなダンボール箱を持ったご婦人が、「玄関先に置いてありました。」と言って、小生に蓋のないダンボール箱を差し出した。反射的に受け取った。ご婦人は、何も言わず立ち去った。

 居間でダンボールの中を覘いた。3匹の臍の緒が取れたばかりの眼もまだ開いていない赤ちゃん猫が、底にうごめいていた。

 すぐ、家人を起こした。家人は、「またぁ~。」と言って、どこからかぼろタオルを持ち出し、赤ちゃん猫を包み、粉ミルクと猫用哺乳瓶を用意し一匹づつミルクを飲ませた。赤ちゃん猫は必死に乳首に吸いつき、満足すると吸い付くのをやめた。家人は、3匹の哺乳を終えた後、ダンボールの底に“ぼろきれ”を敷き詰め、赤ちゃん猫が温まるように寝つかせた。

小生が「どうする?」と尋ねると、家人は後かたづけをしながら「仕方がないじゃない。」と眠そうに言った。一段落し、これからの事を打ち合わせた。3時間ごとに哺乳しなければならないことを知った。夜11時に始めたから、次は午前2時、5時となる。結局、夜の8時、11時、午前2時の保育は小生が担当することになった。猫用哺乳瓶の使い方は慣れていないと難しいので、小生はミルクを注射器で目薬瓶に入れ哺乳ビンとした。哺乳が終わり下腹部をさすると勢いよく放尿する。これが赤ちゃん猫の「子育て」の基本である。

 数週間たつとダンボールの中を処せましと駆けまわるようになった。ダンボールは次第に大きなものが必要になった。餌(家人は食事と言っている)もミルクから缶詰のペットフードになった。「トイレ」の躾を始めた。応接間の床に数枚の新聞紙を敷き、その上にバスタオルを置く。赤ちゃん猫は当初は勝手な所で用を足すが、しばらくすると同じところでするようになる。自分の臭いで分かるのである。

 用を足したタオルの部分を切り取り、小さな箱に「猫砂」と一緒に入れておくと赤ちゃん猫は、時にはおそそもするが自分の臭いのする「猫砂トイレ」で用をたすようになる。「トイレ」の躾の完了である。

 「生後3週、トイレ可、予防接種済」などの情報を添え書きした「赤ちゃん猫の写真」を通りに面したガラス窓に貼り付け貰い手を待った。2匹の貰い手は直ぐついたが、一匹はなかなかなかった。2ヶ月も経つと家中を駆け巡り、小生が帰ると玄関で足にまとわりつくようになった。可愛い。心の中で「クロ」と名付けた。家人は、すでに家猫もいるし2匹はだめと言っているが、このまま家で飼っても良いかなーと貰い手がないことを願うようになった。日に日に可愛さは増した。帰宅が楽しくなった。

 とある日、家に帰ると何時ものようにとびつく「クロ」がいない。「どうしたの?」と家人に聞くと、「貰い手があったの。猫砂と缶詰を付けて渡したの。良かったわ。」と喜んでいた。

小生の「子育て」は終わった。(完)

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