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コラム「医師として、武士として」 Vol.79 “呑んべい”の言い訳 安藤 武士 Andou takeshi

1941年、新潟県生まれ。1967年、新潟大学医学部卒業後、医師登録と同時に外科研修を開始。72年、呼吸器・心臓血管外科を専攻後、80年より、心臓血管外科部長として日本赤十字社医療センターに勤務。87年より職域病院部長、2001年より職域診療所所長、2010年より佐野市民病院健康管理センター所長、そして 現在は、医療法人社団東華会・介護老人保健施設たかつ施設長として活躍。労働衛生コンサルタント・スポーツドクター(日体協)・健康スポーツドクター(日医)・認定産業医(日医)の資格を持ち、これらの5つの顔を絶妙な味で使いわける医学博士である。身体の大きさと、豪快な笑い・笑顔には、その人柄と存在感をより強くアピールする何ものかが潜んでいる。やはり'武士'にして"武士"ここにあり。

Vol.79 2017.3.7 “呑んべい”の言い訳」

直木賞作家の故・山口 瞳氏が昭和48年より、大衆夕刊紙に連載した「酒呑みの自己弁護」という酒飲みの心理を熟知したショートエッセイがある。単行本として上梓されている。

山口 瞳氏は、自身の酒癖の悪さをあげているが、有楽町の「ニュートーキョー」というビアホールで万引きをしたことを告白している。そのビアホールから、ゴブレットやジョッキを盗んだのである。(中略)私の場合は、巧妙であり、悪辣であった。私はそれほどほしくてたまらかった。「ニュートーキョーのグラス類は、安定がよく、テーブルに置いたときに、ぐらぐらせずに、ぴったりと吸いつくようになっているのがいい感じだった。」という理由からである。万引きの方法も詳細に記している。さらに、「私の犯罪はスーパーマーケットで万引きするよりはいくらかマシだったと思う。」とも記している。まさに「酒飲みの自己弁護」である。

故・山口 瞳氏が通った「ビアガーデン」に40数年経た現在、小生も学生時代の仲間と、同じ「ビアホール」で定例懇親会を持っており、ビアホール名物の“カミカツ”を肴に瀬戸物ジョッキで飲む旨さは何とも言えない。しかし、小生はどんな酔っても瀬戸物ジョッキを無断で持ち出すという気は起らないが、家にあっても悪くないとは思っている。酒飲みは、なにかに付け“グダグダ”という言い訳をするが、それを代弁していただいているので非難はしない。

さて、山口 瞳氏の「酒呑みの自己弁護」を、小生は「“呑んべい”の言い訳」といったほうが“呑んべい”にはよりぴったり嵌ると思っている。小生が山口 瞳氏の言う「酒呑み」の範疇に入るかどうかわわからないが、そろそろ「やめよう」と思っている。ここ数ヶ月、何とか飲まずにいたが、ついに呑まざるをえない事態が起こり飲酒を再開した。

先日、友人と高速バスで遠出をした。帰路の終点は、JR東京駅日本橋口であった。高速バスを降り地下鉄利用のため北地下十通路に“旨い処”が並んでいる、所謂、「黒塀横丁」を歩いていたが二人と小生も用を足したくなった。トイレを探したが、見つからず焦った。うろうろ探し回っていると、トイレマークが目に入った。飛び込もうとすると有料トイレで、入るには100円硬貨かメダルが必要と表示されていた。小生は500円玉、友人は50円玉しか持ち合わせがなかったので焦った。恥を忍んで近くの居酒屋の前に立っていたレジ嬢に事情を説明し両替を頼んだ。店員さんは笑いながら、“これを使ってください”とメダルを差し出した。お金はいりませんといわれ、急を要していたので礼もそこそこに、メダルでドアーを開け飛び込んだ。

 快適な気分になりトイレに別れを告げ、メダル嬢に礼を言いに行った。言葉だけでは足りないと思い2人でジョッキを傾けることになった。紳士の礼儀を果たしたのである。現在、家人に「また始めたの~!」と言われても礼を言い続けている。これは“呑んべい”の言い訳“ではない。紳士なら当然のことをしていると思っている。逼迫した事態を救ってくれたレジ嬢に深く感謝をし続けているのである。(完)

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