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コラム「医師として、武士として」 Vol.83 “かわいそう”  安藤 武士 Andou takeshi

Vol.83 2017.5.3  “かわいそう”

講演会で、講演者に謝辞を述べる役割が小生に与えられた。慣例にしたがい陳腐な言葉で礼を述べたついでに、「どうしてそんなに“かわいそう”という気持ちがお強いのですか。」と尋ねた。講師は、“かわいそう”という言葉は上から目線でそのような言葉は嫌いです。と、ピシャリと言われたことがある。

確かに、上から目線の言葉のニュアンスがあると思っているが、それに代わる言葉がみつかからない。IT検索をすると、気の毒ふびん哀れ痛痛しい痛ましい、という言葉が同義語として記載されている。すべての文言は、やはり上から目線の感がある。「かわいそう:可哀相」という言葉は、近ごろは年上にも用いるーと、あるから、小生は“かわいそう”という言葉を上から目線でいっているのではないと気にしないで用いている。言葉遊びは終え先に進む。

過年の11月初旬の朝ことである。仕事で日本海側にある交通要所の都市に行った。特急電車から降りると、みぞれ交じりの小雪が舞っており寒さが身に染みる天候であった。

駅前の広場にベンチが置いてあった。寒さの中、そのベンチに靴も履かずぶるぶる震えているそう品も悪くない50歳ぐらいのご婦人が座っていた。スカート、ブラウスは薄汚くパンストもつけていなかった。ベンチに大きなバッグと衣類が詰め込まれたポリのごみ袋があった。一見して「新人ホームレス」であることがわかった。どうして靴を履いていないのだろう、これからどうするんだろう、“かわいそう“にと思った。

彼女とかなりの距離があったが、小生と眼があった。すると彼女は、小生に向かって裸足で走ってきた。小生が立ち止まっていると、彼女は「下着の一枚も買いたいので1000円ほど恵んでください。」とねだった。小生はいいですよ。寒くて大変ですね、と言い財布から1000円の積りで札をだした。女性はお札を手にして、すぐ、こんなにいただいていいんですか、有難うとうございます。有難うございますと何度も言って腰を折り、両手で札をささげあげ礼をした。わたした札がもろに目に入った。彼女が手にしていた札は5000円札であった。

財布からお札を出したときは、遠方をみる眼鏡を使用していたので渡したお札の額を確認せず渡した。彼女が礼を言わなければ、5000円札であったことに気が付かなかった。釣りをくれとも言えず、“おからだに気を付けて”と、紳士然としてそこを離れた。この寒空にどんな事情があってホームレスになったのであろうと思うことがしばらく頭から離れなかった。

帰り電車は、急行になった。一杯やりながら件のご婦人のことを思いながら帰った。数年たった今も、その後どうしているのだろう、“かわいそうに”と昔を思い出している。(完)

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