コラム「医師として、武士として」 Vol.106 「老化:フレイル(2)」 安藤 武士 Andou takeshi
Vol.106 2019. 1.25 老化:フレイル(2)
昨今、「加齢現象」を「フレイル」と同義語として用いるようになってきているが、ここでは、なじみのある「老化」という言葉を用いることにする。「老化」の定義は、「加齢に伴う生理機能の低下」とされているが、決して「加齢に比例」するものではなく、「加齢に伴って起きる現象」と言われている。
「老化に伴う生理機能の低下」は、ゴムバンドに喩えるなら、古くなると弾力がなくなり切れやすくなる現象を想定するとわかり易い。
個体(ヒト)はいろいろな臓器から形成されているが、その臓器を構成している細胞の「老化」とはどのような現象であるかを知る必要がある。「細胞の老化」が「臓器の老化」に繋がり、ひいては「個体(ヒト)」が老化する。「細胞」には、遺伝子(DNA)の集合体である23対の「染色体」がある。その末端に「テロメア」という物質があり、末端を保護している。「テロメア」は、細胞分裂をコントロールしており、細胞が分裂するたびに短くなりある程度の長さに短縮すると「細胞分裂」は起きなくなる。「たびに」という事は、「時を経る」と理解されるので「細胞の加齢」に伴う現象を「細胞の老化」といっても良い。
本論から外れる。我々は人類学的にはホモサピエンスに属するが、その中で我々のご先祖様であるクロマニヨン人から今日の「ヒト」の細胞の「分裂予備能」はまったく変わらないといわれている。クロマニアン人の平均寿命が30歳~50歳程度と短かったのは「細胞が分裂」をまっとうする前に、病気や災害などの環境因子により寿命が短くなったという。古代から「ヒト」の「細胞の分裂能」は変わらず、本来の寿命は決まっているが、病気や災害が寿命をちじめる。今日の我々と同じである。
話をもとにもどす。「テロメア」が短くなると不可逆的に細胞分裂、増殖を止め、「細胞老化」という状態になる。「テロメア」をコントロールしている「テロメラ―ゼ」という酵素がある。「テロメラ―ゼ」が活性化すると「テロメア」の短縮(細胞の老化)を食い止めることができるが、活性化しすぎると細胞の無限の増殖を引き起こす。細胞の「がん化」である。従って、「テロメラ―ゼ」は、「細胞の老化」や「細部のがん化」を制御しており、「もろ刃」の刃の機能を持つ。
さらに、P53という遺伝子が「がん細胞」の発生を食い止めることが知られており、「がん治療」に用いられようとしているが、逆に「細胞の分裂能」を抑制することになり、「細胞の老化」が進み、引いては「個体」の老化を惹起する。
結局、外的要因(病気)がない限り、「人の寿命」は120歳と遺伝子により決められているが、遺伝子が変化しない限り「ヒトの命」は質、量とも変わらないのである。どうして、120歳なのかわからない。
遺伝子は「突然変異」と「自然選択」と「遺伝的浮動」によって変わると言われている。雑駁にいえば、“成り行きまかせ”に変わるということになる。
その様に考えると、「老化」を止めようなどと考えることは無駄なことになる。「寿命」の遺伝子操作は、「命のトリアージ」に繋がるのでしないほうが良いと思っている。「病気」は「ヒト」の寿命を変えることになるので、「病気」に対しては、遺伝子操作をも含め何らかの対策を立てなければならないが、「ヒト」の「老化」を食い止める努力はしてもしなくともどうでもよいことになる。「老化」という現象を知って、今更,じたばたしても“詮無い”ことが理解できた。
自然体で気楽に日々を送ろう。さあ、美味しい酒肴で一杯やろう。(完)
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