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コラム【市民の眼】 Vol.51 映画「人生をしまう時間」 <“死に際の医療”に打ち込む森鴎外の孫>  尾崎 雄 Ozaki Takeshi 

1942 生まれ。65年早稲田大学卒業、日本経済新聞社入社。札幌支社報道課、流通経済部、婦人家庭部次長、企画調査部次長、「日経WOMAN」編集長、婦人家庭部編集委員などを経て、日経事業出版社取締役編集統括。高齢社会、地域福祉、終末ケア、NPO・NGO関連分野を担当。現在、フリージャーナリスト・AID(老・病・死を考える会)世話人

Vol.51 映画「人生をしまう時間」 <“死に際の医療”に打ち込む森鴎外の孫> 2019-9-16  

 このところ、森鴎外の孫にはまっている。
 鴎外の孫とは、明治の文豪、森鴎外の次女、小堀杏奴の長男、小堀鴎一郎氏(81歳)である。その鴎外の孫が在宅医療に打ち込む姿を克明に記録したドキュメンタリー映画を見た。
東大附属病院や国立国際医療センターでメスを揮った外科医が定年退職を機にメスを捨て、地方病院の訪問診療医に転じて在宅医療ひとすじ13年。華麗なる転身を遂げた人物だ。映画のタイトルは「人生をしまう時間(とき)」(NHKエンタープライズ制作)。「患者と家族と向かい合い、最後の日々を過ごす――小堀鴎一郎医師と在宅医療チームに密着した200日」の記録である。
日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受けたテレビドキュメント「在宅死 “死に際の医療”200日」がベースとなっている。テレビに集録できなかった部分や新たな映像を加えた上映時間110分の劇場版。どうせテレビ番組の焼き直しだろう、と、たかをくくっていたが、そうではなかった。やや中だるみ感があるものの、「みんな違ってみんないい」とされる在宅看取りのシーンを丹念に拾い、真の医療とはなにかを考えるヒントを与えてくれた。

『バラ色の在宅』とはほど遠い、在宅医療のリアル」

 美談やユートピア的に描かれがちな今までの在宅医療を紹介するありきたりの映像と違って、この映画は、教訓めいたナレーションや解説をいっさい流さない。訪問医療や在宅での看取りの姿を淡々と描く。下村幸子監督は「『バラ色の在宅』とはほど遠い、複雑な問題を抱えた医療現場のリアル」に「すっかり心を奪われ」て、自らカメラを回したという。
見落とせぬシーンをひとつ紹介しよう。ある患者が、いよいよ自宅で息を引き取る時刻が迫ったとき。小堀医師はいったん病床を離れて、患者の家を出る。庭にたたずんで、「そのとき」を待つ。カメラは家族等に囲まれた患者が永い生涯を閉じる瞬間を映し出し、すべてが終わったとき、小堀医師は、なくなった元患者の枕元に戻って、死亡診断書を書く。この数分間こそ本作品のクライマックスだ。在宅医療に携わる医療職や介護職だけでなく、いや、病院勤務で「在宅」知らずの医師や看護師らにも見てほしい。そこに医師の本分と医の本質を汲み取ってほしいからだ。
幾多の曲折を重ねながら国の医療政策の軸足は、病院医療至上主義から在宅医療シフトに転じた。にもかかわらず、医師や看護師らは、その意味をどこまで認識しているのだろうか。極端な言い方をすれば、医療機関の多くは診療報酬など収入の源泉が「在宅の方がオトク」だからという経営上の理由から「在宅シフト」に転じている、といってしまったら言い過ぎだろうか。

祖父の「安楽死」、孫の「在宅看取り」
 医師でもあった森鴎外は安楽死をテーマにした小説「高瀬舟」とその解説「高瀬舟縁起」を書き、「安楽死」を考えるきっかけを後世に遺した。その孫である小堀鴎一郎医師は昨年、『死を生きた人びと――訪問診療医と355人の患者』(みすず書房)を出版し、今年の日本エッセイスト賞を受けた。そのなかで小堀医師は「病院死」が「病院以外の死」すなわち在宅で看取られる「理想的な死」に「世論がなだれをうって」いくことに懸念を表わしている(第3章「在宅死のアポリア」、第4章「見果てぬ夢」)。今度の映画は本書の映像版と言ってもいい。
アポリアという哲学用語は、一つの問題に対して矛盾する解決法が存在することを言う。日本の医療現場も医療政策もそんな状態にある。
(「人生をしまう時間(とき)」は9月21日より東京・渋谷 シアター・イメージフォーラムでロードショーほか全国順次公開)

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