「父の遺した戦中戦後―近衛文麿主治医・岡西順二郎の日記」の著者、岡西雅子さんから・・・『メッセンジャーナース――看護の本質に迫る』を読んで ⑬こんなにもたくさんの看護師たちが、患者に寄り添おうとして真剣に努力している〔完〕
この五月、私はまたK大病院に入院した。昨夏、足の手術のときに入れた金具を取る手術を受けるための入院だった。希望した病棟はすべて満床。やむを得ず、新しくできた病棟の値段の高い個室に入ることになった。シャワー・トイレ付き、広さも十分ある気持ちのよい部屋だった。食膳は、見た目にも美しく盛りつけてある。看護師たちは、みな笑顔を絶やさずに応対してくれる。前回の病棟では検温に回ってくることもなかったが、ここでは朝、夕の交代のたびに看護師が部屋に挨拶に来る。血圧を測り、脈を取り、熱を測る。ほんの三、四分であっても患者と向き合う時間をとっている。傷の痛みはどうか。夜は眠れるか。食事は食べられているか。決まりきった会話ではあるが、直接、顔を合わせて話すことは大事なことだ。
ある日、傷を覆っている包帯が緩んでしまった。昨年入院した病棟では、「整形外科領域のことは、私たちはやってはいけないことになっている」と断られた。ちょっと巻きなおすだけなのに…、と不満気な私に、「傷に関することには手を触れないことになっている」と言う。クリミアの地で兵士たちの傷の手当てをしたナイチンゲールのような看護師像は、このとき、私の中ですっかり崩れ去った。
こんどの病棟でも断られるかもしれない、と思いながらも、手にも障害がある私にはうまく包帯を巻き直すことはできそうにない。回ってきた看護師さんに「あのう、包帯が緩んでしまって…」と言うと、「あ、巻き直しましょう」と、いとも簡単に手際よく包帯を巻き直して、きちんと留めてくれた。
「この病棟は、特別に優秀な看護師さんを集めているのですか」と聞いてみた。「そんなことはないけれど、いろいろな資格を持っている人がいます」と言う。病棟に配属される前に、患者に対する言葉遣いなどマナーの講習を受けたそうだ。なるほど、看護師の技能以前に、ひとりの人間として相手の立場に心を寄せ、よく話を聞き、応対する能力を身につけるのは大事なことだ。何より重要なのは、相手を思いやる心だ。
この本に報告を寄せているのは、さまざまな職場で経験を積んできた看護師たちだ。治療のすべのない患者であっても、ひとりひとりが最期まで力を尽くして生き切ることができるように、どんなことでもして援助したいと努力を重ねている看護師たち。こんなにもたくさんの看護師たちが、患者に寄り添おうとして真剣に努力している。胸が熱くなった。
看護師の仕事の内容は、たしかに昔とは変わってきた。これからも、さらに変わっていくだろう。時代の要請に応じて仕事内容が変わったとしても、病み傷ついている患者に寄り添おうとする思いがあるならば、看護師は患者にとって最大の味方になる。患者はひとり孤独に戦わなくても、メッセンジャーナースといっしょに病気に立ち向かっていくことができるのだ。
この本を読んでよかった。これから一生続く私の病気との戦いに、メッセンジャーナースが寄り添ってくれるかもしれない。そのためにも、メッセンジャーナースの数が増えてほしい。
メッセンジャーナースの存在を多くの人は知らない。まずは一般の人たちにメッセンジャーナースのことを知ってもらうこと。この本が、医療関係者だけではなく、広く一般の人に読まれるようにと願っている。
なお、付図の字が小さくて読みにくかった。もう少し大きくするか、文章にして文中に挿入してもらった方が分かりやすいと思った。〔完〕
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